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福岡高等裁判所 昭和42年(ネ)651号 判決

控訴人 有限会社武藤電気商会

被控訴人 合資会社双葉電機商会

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「原判決を取り消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一・二審とも被控訴人の負担とする」、旨の判決を求め、被控訴人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方陳述の事実および証拠関係は、被控訴人において、控訴人との取引の始期は昭和三六年八月一〇日と訂正したほか原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。

理由

一、被控訴人が電機機器の卸売商であり、控訴人がその小売商であることは当事者間に争いがなく、被控訴人が有限会社武藤電気商会に対し昭和三六年八月一〇日から昭和三九年三月三日までの間に代金は毎月末日払の約束で合計金一五二万六、九三四円の電気製品を売り渡したことは、売渡の始期の点を除き当事者間に争がなく、右始期が被控訴人主張の年月日であることは弁論の全趣旨によつて認められる。

二、控訴人は、昭和三九年五月一二日設立の会社であつて、右取引の当事者たる有限会社武藤電気商会とは別個の会社であると主張するに対し、被控訴人はこれを否定し、控訴人は右取引の当事者たる有限会社武藤電気商会と同一会社であると主張するので以下この点につき検討する。

成立に争いがない乙第一号証に、原審証人井手資郎、同吉村忠雄の各証言、控訴人代表者武藤公博本人尋問の結果の各一部および弁論の全趣旨を総合すると次の事実が認められる。

(1)  控訴人会社は昭和三九年五月一二日設立されたものとして同日設立登記が経由されている(これを以下新会社という)。他面、有限会社武藤電気商会は昭和三六年八月一〇日設立されて同日設立登記を経由し(これを以下旧会社という)、昭和三九年四月二五日商号を有限会社協和電気商会に変更し同年同月二七日その旨の変更登記を経由し、昭和四〇年五月二〇日社員総会の決議により解散し同年六月一日解散登記を経由している。そこで新旧両有限会社の組織、活動、設立、商号変更等の経緯を検討するに、

(イ)  両者ともに本店所在地は佐賀市水ケ江町一五八番地である、取締役は新会社設立当時両者とも武藤公博、武藤忠明の両者であり、代表取締役は武藤公博であつて、両名は兄弟である。旧会社の資本金は七二万円であり社員は武藤公博ら三名の兄弟のみであり、新会社の資本金は八〇万円あり、社員は武藤公博ら兄弟二名、他二人であるところ右兄弟二名の出資金は五〇万円であること。

(ロ)  両者の営業目的はいずれも電気器具の販売およびこれに附帯する業務とされており、旧会社は商号を有限会社協和電気商会と変更した後は殆んど営業を停止しており、右商号変更後僅か半月後に変更前の商号の新会社が設立登記されて、旧会社と同一本店で同一営業を開始するに至つた。しかも新会社は、旧会社の従業員をそのまま引き継ぎ雇傭して営業している。

(ハ)  右の如く旧会社の商号を変更し新会社を設立し登記したのは、旧会社が経営不振となつたので、新会社を発足させて営業を継続するにあつたのであるから、従前の得意先を確保し従前の商号を維持する必要があつたからに外ならない。

(2)  つぎに、旧会社解散の実態をみるに、

旧会社解散によつて清算人には社員総会の決議により取締役でない吉村忠雄が就任しているが同人は旧会社の経理を担当していた税理士であるところ、同人は有限会社法に準用される債権者への債権届出の催告もせず、また、同人は新会社の設立を知らず、旧会社の伝票帳簿類がずさんなためと旧会社代表者らの協力が得られないため清算事務が進捗せず、たとえば、旧会社の車輛にして新会社において使用しているものがあるがその使用関係は不明であり、旧会社営業所の賃料等明確でなく、他面、旧会社の売掛債権が数一〇万円ある筈であるが、このうち新会社ないし武藤公博において取立てているが、同清算人はこれがどう保管されているか全然知らされず、これを探知しえない状態である。また、旧会社解散当時の柵卸商品があるとされていたのにかかわらず、同清算人は右商品を見たこともなく、したがつてこれを確認して清算することもできず、解散後二年を経過しても清算事務は殆んど進行していない。

以上認定に反する証人吉村忠雄の証言、控訴人代表者本人尋問の結果部分はいずれも信用できない。

三、叙上認定の事実よりすると、旧会社の商号変更登記にきびすを接して新会社が設立され、新旧両会社の本店所在地、代表取締役、営業目的、従業員は全く同一であり、その役員もほとんど共通で、旧会社の清算事務は進行せず、しかも新会社は旧会社の営業財産をそのまま流用していることが推認されるから、旧会社の商号変更・解散、新会社の設立は、旧会社の債務を免れるため、いわゆる個人会社であることに乗じとられた会社制度の濫用というのほかなく、かかる場合には、信義則上、新会社は旧会社と別人格であることを主張できず、その結果、旧会社と同一の責任を負担するものと解するのが相当である。

以上の理由により、被控訴人の本訴請求を認容した原判決は相当で本件控訴は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 亀川清 佐竹新也 岡野重信)

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